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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』77

last update 最終更新日: 2025-01-23 17:02:36

「……風呂入るの、手伝ってくれない?」

「え?」

一人で入ることはできるだろうけど、久実にまだそばに居てほしかった。明らかに困惑している表情だ。

「ちょっと手伝ってほしい」

「でも、帰るの遅くなっちゃう」

「じゃあ、いいこと思いついた」

「 いいことって?」

「明日土曜日だし泊まれば?」

「そんな簡単に言わないで。付き合っていない男の人の家に泊まるなんておかしいでしょ?」

俺とそんなに居たくないのだろうか。

「…………わかったよ。一人で入る」

服を目の前で脱ぎ始めると久実は顔を真っ赤にした。全裸になった俺は足をかばいながら歩くと、久実は肩を貸してくれる。

「つかまって」

なんだかんだ言って久実は俺を心配して介抱してくれる。優しいのを知っていて甘える俺は卑怯な男だ。

頭と体を洗う間はバスルームのドアの前で待っている。

ああ、帰したくない。

「久実」

「なに」

「ちょっと」

ドアを開けた久実をバスルームに引きずり込んだ。

「無理やり引っ張らないで」

俺はどうしても帰ってほしくなくて、服に躊躇なくシャワーをかけた。

「ちょっと! 何するの!」

さすがに怒っている。

「ごめん、手が滑った。乾くまで帰れないな……。どーせなら久実も脱いで入っちゃえよ」

服からは雫が垂れている。久実は怒りに満ちた表情で俺を見た。

「卑怯! こんなんじゃ本当に帰れなくなってしまうでしょ」

「………ああ。たしかにそうかもしれない。でも、こんなことでもしないと久実は帰るだろう。俺のそばに居ようとしない。俺の気持ちを知っていてここに来てるんだ。警戒しないほうが悪い」

俺は最低な男だ。

久実を悲しませて、困らせることしかできないのだから……。

俺は彼女の服を 脱がせた。

胸にある傷が痛々しい。頑張ってきた勲章に見えた。

俺がこれからの久実の人生を守ってやりたい……。

そう願うのに、どうして久実は応えてくれないのだろうか。

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    そして、四日になった。前日から緊張していてあまり眠れなかった。化粧をして髪の毛をブローした。リビングにはお母さんがいて、テレビを見ていた。「友達と会ってくるね」「気をつけてね」「行ってきます」家を出ると、まだ午前の空気は冷たくて、身震いした。手に息を吹きかけて温める。電車に向かって歩く途中も緊張していた。ちゃんと、思いを伝えることができるといいな……。赤坂さんに恋していると気がついたのはいつだったんだろう。かなり長い間好きだから、好きでいることがスタンダードになっている。できることなら、これから一生……赤坂さんの隣にいたい。マンションに到着し、チャイムを押すとオートロックが開いた。深呼吸して中へ入った。エレベーターが速いスピードで上がっていく。ドアの前に立つといつも以上に激しく心臓が動いていた。チャイムを押すと、ドアが開いた。「おう」「お邪魔します」赤坂さんはパーカーにジーンズのラフな格好をしているが、今日も最高にかっこいい。私は水色のセーターとグレーの短めのスカート。ソファーに座ると温かい紅茶を出してくれて隣にどかっと座った。足はだいぶ楽になったらしくほぼ普通に過ごせているようだ。「久実が会いたいなんて珍しいな」「うん……。話したいことがあって」すぐに本題に入ると、空気が変わった。赤坂さんに緊張が走っている感じだ。「ふーん。なに」赤坂さんのほうに体ごと向いて目をじっと見つめる。何から言えばいいのか緊張していると、赤坂さんはくすっと笑う。「ったく、何?」緊張をほぐそうとしてくれるところも優しい。赤坂さんは人に気を使う人。「私……、赤坂さんのことが好きなんです」少し早口で伝えた。赤坂さんは顔を赤くしているが、表情を変えない。「うん……。で?」「好きなんですけど、交際するのを断りました。その理由を話に来たんです」「……そう。どんな理由?」しっかり伝えなきゃ。息を吸って赤坂さんを見つめた。「両親に反対されています」「え、なんで?」「赤坂さんは恩人ですから……。 だから、対等じゃない……から……」頭の後ろに片手を置いて困惑した顔をしている。眉間にしわを寄せて唇をぎゅっと閉じていた。

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  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   完結編・・・第一章14

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